ガンダルフと魔法

幼い頃、色々な童話で描かれていた老人は、皆一様に膨大な知識を語り、知恵を授けてくれる存在でした。私の祖父は昔、戦争の記憶を方ってくれました。あの時幼かった私は思わず欠伸を出してしまいましたが、それでも心の中では尊敬の念が止む事はありませんでした。

ガンダルフは、そういった『先人は敬うべき』というその敬われるに等しい存在であるような気が致しました。私が子供の頃は、今程『痴呆』等の病は騒がれていませんでしたので、(尤も大人達がそこまで子供達に教えていたかどうかの方が疑問でもありますが)老人は賢者であるという印象がありました。かの有名な『姥捨山』等の童話を始めとして、 老人の知恵によって助けられる話は昔から多くありましたし、「道に迷ったら老馬に道を任せればいずれ道に戻る」と古来より言われる様に、老人は体力を失う変わりに知恵を得る物だと思っておりました。

ところがガンダルフは知恵だけで無く力も備えていました。 しかも、魔法だけではなく、剣も扱えました。更に白の乗り手として先陣を斬って戦場を駆け抜ける辺りがとてもかっこよいです。最早老人ではなく、老人の形をした賢者というか、とても不思議な存在です。

なので、ガンダルフは「かっちょよい」のです。

私は本来『無敵の強さを持つキャラクター』は嫌いです。「じゃあ勝手にすれば?」とか思ってしまって、引いてしまうのです。無敵のキャラクターが切り開く未来は、無敵でしかないからです。
けれども『指輪物語』のキャラクターはそうでは無い所がとても魅力的です。
一見無敵とも思えるガラドリエル、彼女は指輪に依存しており、一つの指輪が滅びれば自分以上の力を引き出す事はできず、ただのガラドリエルとして生きなくてはなりません。
平和の直中にいる様に見えるエルロンドも、ひとたび裂谷が戦場になれば、その地形を活かして逃げる時間を稼ぐしかできないでしょう。
アラゴルンは剣がいくら伝説のものであっても生身の人であり、ギムリも斧以外は苦手な物も多く、レゴラスも弓以外は苦手なものも数多くある事でしょう。フロドやサムを始めとする他の仲間達は言わずもがなです。
叡智をたずさえ、力も優れたガンダルフも、仲間という足枷(とは彼は思っていないかと思いますが)があったり、人としての心を持つが故に困る事も屡です。実際、バルログには負けかけ、運と過去の経験によって何とか難を逃れたくらいですし。 もしそうはいってもガンダルフは無敵であるとすれば、きっとトールキンさんの描写 と展開の為せる技なのだなと私は思います。

今迄『指輪物語』を先に読み終えた数人の友人達の感想は賛否両論ではありますが、私は今の所トールキンさんの人物描写 は割と好きです。


20020720(現在小説七巻中盤)