2004.03

28 キダム見て来ました!
 もともとテレビを全然見ない私は、キダムはサーカスの一種だと思っていました。そりゃもう疑いも無く。しかし実際は……これはサーカスか?どうやらCMの唱い文句通 りの感想を抱いた様です。
 結論としては、素晴らしかった……♪ですね。
 感想としては、想像より遥かに物語性を持ち、シュールで人間の限界に挑戦した高度な演劇……っていうか人間じゃ無いとすら思わせる程の無重力空間でした。

 開演五分前には既に舞台に正装したピエロ(といった表現で何とか御想像頂きたいのですが……別 の言い方をすると悪戯大好きな明るい紳士……ぽいエディ・マーフィー?)が現われ、小さなラジオで音楽を流し、それに飽きると(気に入った音楽になったから?)客席におり、自分の席を探すお客様を御案内しはじめるという……。こちらです〜はいはいこちらです〜と、気が付けばお客様(若いカップル)は場内一周。あ、間違えた、こっちです。あ、ここ舞台ですけど気にせず通 っちゃって下さい、と言わんばかりにまた誘導。舞台の上で、あ、ついでなんで御挨拶どうぞ、と軽くお辞儀をさせ、その後、ピエロ氏は彼氏と腕を組み、こちらです、ええこちらですと出口迄御案内。彼を出口へ追いやると慌てて戻り、彼女と腕を組み、こちらでぇ〜っすと本当の席まで御案内。慌てて戻って来る彼氏には、貴方の席はあちらですよ?と御案内……。会場前の一幕に、観客も大笑いでした。他にもちまちまと笑いを誘ってくれて愉快でした。
 幕が上がってみると……二つの椅子にはそれぞれ新聞を読む父親、椅子でねこける母親……。娘が声を掛けても何も返事が帰ってこない冷え切った空間……。来訪者が扉を叩き、透明人間が傘をさしたまま家の中へ入り、ひと回りすると、帽子を落として立ち去ってしまい……、訳も解らず娘がその帽子を被ると世界がどんどん空の彼方へ舞い上がり、彼女の回りには不思議な世界が訪れる……といった様に受け取れました。まるで無声映画を見ている様でした。そして私はミヒャエルエンデのモモを、少し思い出しました。

 CM等で亟取りあげられている金属フレームの大車輪の中に人が入って居る演技……CM等を見る範囲ではただ人が回っているだけだと思っていました。そんな柔な物じゃありませんでした!重力って一体何!?と思わせる程、いや、何と申しますかまるで大車輪の動きが計算され尽くしたプログラム通 り動くかのような滑らかさで、たった一人の人間が全身を使ってそれを制御しているとは全く思わせない、寧ろ思えない、信じられない様な見事な動きを出していました。更に彼は大車輪を制御するだけでなく、制御しつつ自らもその大車輪を使って様々な演技を見せていたと言う、大変素晴らしい演技でした。ぶら下がったり、大車輪を軸に人が回ったりしていた事を考えるとこの車輪の重さは少なくとも人の体重よりは重い筈です。それを、持ち上げる事は無かったにせよ、上手く制御されていました。コインを回し、その回転が止まりそうになる時コインは水平に近い形で回転します。それとほぼ同じ体勢になっているというのに何故かそのバウンドは高まり、そして終いにはその回転力だけで自立すると言う、まるで静止しようとするコインの逆再生を見ているかのごとき、重力への勝利を見せつけられました。見事でした。

 又、四人の幼い少女達が鼓の様な独楽を、縄跳びの様な紐で上手く操り、華麗に見せた数々の技も物凄く見事でした!新体操のボール、輪、縄を組み合わせた様な物ですが、そこにバク転等の体術も数多く取り入れられ、軽々と人の上に立って受け取る等、とにかく 素晴らしい物でした。

 天井依り下げられた二枚の真っ赤な布に体を絡ませ、空中での迫力かつ艶かしげな演技、天井から下げられたロープ一本を使って行う数々の空中演技、そして素晴らしい筋肉……(そこかよ!)。とにかく凄いの一言に尽きました。

 要所要所で風船を使った、物語を進める様な演出、笑い等があり、その辺も一般 的にサーカスと呼ばれる分類とは異なるのかなと感じました。やれ空中ブランコだ、やれ人間トーテムポールだ、そういった物では無くて、誕生、そして生命の力強さを感じさせる演目があったり、演技の中心者と遠く離れた舞台にも必ず人が立ち、何かしら演技し、その意図を補佐する所も合ったりで、芸術的にも中々優れた物だと思いました。

  来週が最終公演という事ですが、キダムはスリルを楽しむ為に何度も見に行くサーカスでは無く、次何をやるか解らないその未知との遭遇を、人生観に当て嵌めながら受け止める演劇であるのでは無いかなと思いました。

 

1999-2006 Tohryu Rafu. An unapproved duplicate, the ban on distribution. とうりゅうらふう